ワレン・チルソン社食品広告のなぞ
◆英字紙の広告 前号で、英字紙「ヒョーゴ・ニュース」(The Hiogo News)創刊号(1868.4.23号)に掲載されたワレン・チルソン社(Warren,Tilson & Co)のパン広告を紹介した。
同社は同じ紙面に、次の広告も出している(英語)。
ワレン・チルソン社
キャロルビル5
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代理店、小売商 海軍御用達、総合商店
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極上牡牛肉、野菜、生鮮食品を最安価で提供
保存牛肉、牛乳、果物、小麦粉、バター、チーズ、ピクルス、ソース、オイル、コーヒ、砂糖、スパイスその他
最高品質とブランド
ワイン、蒸留酒
パイントとクオートのバスエール
神戸1868年4月23日
神戸開港(1868.1.1)からすでに4か月と23日が経過していたが、外国人居留地はまだ工事中だった。居留地周辺の民家に下宿していた外国人は、異国の食事に辟易していた。そんな彼らの心中を見通したように、おいしそうな西洋の食材を並べた広告である。
◆キャロルビル 「キャロルビル5」の「ワレン・チルソン社」の実態について、横浜居留地の研究者である知人に尋ねてみた。返事は意外なものだった。
「キャロルビルは確かに存在した。けれども、ワレン・チルソン社の名は見当たらない。同社の横浜での営業実績はない。キャロルビル5号室に、開設準備室を設置したとの想像は可能である。キャロルビルは、雑居ビルのようだった。ビル2階には、一時、フリーメーソンの集会所が置かれていたこともある」。
同じ紙面のワレン・チルソン社広告の左隣に、J.D.キャロル商会(J.D.Caroll & Co.)の広告が出ている(原文英語)。
「広告 キャロル商会 船舶用品供給業&総合商店 兵庫と横浜 神戸、1868年4月23日」
米国籍のキャロル商会は、「船舶用品供給業者」(Ship Chandler)、すなわち、港に停泊する船舶に食料雑貨・船用品を供給する商人であった。
ワレン・チルソン社は幽霊会社か。横浜での営業実績がないワレン・チルソン社の広告について、筆者は次のように考えている。
まず、新たに開港した神戸の外国人を対象に、キャロルビルのオーナーであるキャロル商会が、ワレン・チルソン社を立ち上げたことである。もうひとつは、神戸での開業を目論んだワレン・チルソン社が、横浜での営業実績を神戸の読者に印象付けるために、事務所を「キャロルビル5」に設置したことである。
明治26年の「横浜貿易捷径」に「41番館 米商 カルロルー商会 輸入売品 ペンキ及び洋酒類。輸出買品 磁器及陶器、羽二重・雑貨」とあり、明治31年の「横浜姓名碌」には「41番 カルロル商会 肉類食料品輸入商」とある。
外国人居留地競売まで、まだ4か月以上も待たなければならない。
※ 本稿から引用する場合は、必ず、当ブログからの引用と明記してください。
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