神戸今昔物語(第529号)湊川神社物語(第2部)
「湊川神社初代宮司・折田年秀が見た居留地時代の神戸」(72)
開港150年へのカウントダウン~市長給与と都市の盛衰~
◆市長給与 大正15年刊行の『市政研究
神戸市長物語』(神戸市政研究社)という書物がある。著者は神戸新聞市政記者の伊藤貞五郎である。
同書の全国100都市市長給与(大正14年12月調。年間報酬)は、都市の盛衰を考える上でまことに興味深い(付表)。
◆6大都市の市長給与 市長給与はその都市の経済力(人口、産業等)と格式で決まる。大正14年の全国市長給与の最高額は大阪市長2万5千円であり、2位東京市2万円、3位横浜市1万5千円で、4位の神戸市、京都市、名古屋市の市長給与1万2千円を大きく引き離している。
伊藤は言う。「人口、経済から見て第三位を誇る神戸市長の一万二千円はチト安すぎる」「市会の多数は、都市の体面、格式から論ずるも、年俸を二万円、交際費は少なくとも五千円に増額する必要あろうと言っていた」。
「給与額から評価すれば、大阪の市長は大臣三人分の俸給取り、神戸、京都、名古屋は内閣総理大臣と同額、平大臣よりも多きこと四千円、之をもってしても二重監督は無意味である」。
6大都市に次いで市長給与が高い都市は、給与1万円の札幌市、福岡市、熊本市、函館市、下関市、岐阜市、呉市である。うち、現在政令指定都市になっているのは札幌市、福岡市、熊本市だけである。
◆大阪市長の給与 かつて、大都市の市長給与は高額であった。とりわけ大阪市が群を抜いていた。
なぜ大阪市長の給与は高いのか。伊藤は力説する。「大阪市は、日本第二の大都会、商工業の中心であって関西財界の覇権を掌握している。殊に、大正十二年九月一日の関東大震災以来、実力に於て東京市を凌駕し、十四年三月の隣接部編入に依って、面積戸口も全国第一位となり、政府に対しても羽振りが利き重きを置かれている」。
「但し我が国市長は月給徒に高きのみで年俸六千円の知事に頭が上がらぬ」。市長は「官吏のやうに、叙位叙勲があるでなし、没情漢の市会議員や無理解の市民に虐められ通し、それで俸給が安いと来てはソレこそウダツが上がらぬ」。ちなみに、大正14年の官吏(高等文官試験に合格した高等官)初任給は75円(月俸、諸手当を含まず)である(朝日新聞社『値段史年表』)。
◆都市の盛衰 都市にも栄枯盛衰がある。
現在の政令指定都市20都市のうち、上位10都市で過去5年間(2010~2015)に人口が減少している都市は、神戸市(△9293人)と京都市(△5319人)だけであり、横浜市、大阪市、札幌市、名古屋市、福岡市、川崎市、さいたま市、広島市の人口は増加している。
人口11~20位までの政令指定都市のうち人口減少は、北九州市、堺市、新潟市、浜松市、静岡市である。仙台市、千葉市、熊本市、相模原市、岡山市の人口は増加している。
大正14年の市長給与は下位であったが、100年後の今日「政令指定都市」になっている都市がある。川崎市と広島市である。現在人口7位(147万4千人)の川崎市の当時の市長給与は3千円であった。人口10位(118万8千人)の広島市も当時の市長給与は5千円であった。
市長の政策が都市の将来を決めることがある。
かつて、事実上神戸沖に内定して関西新空港が、地元の反対で泉南沖になったことが、神戸の今日の国際都市機能低下を招いている要因の一つであることは否めない。「国際都市」の看板がない神戸はただの「地方県庁所在都市」にすぎない。神戸空港の国際空港化は喫緊の課題であると考える。
30年後、50年後、日本列島都市群の中で神戸はどんな位置を占めているのだろうか。
全国市長の年俸 大正14.12調べ (単位:千円)
順位
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俸給
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都市名
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1
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25
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大阪市
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2
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20
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東京市
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3
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15
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横浜市
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4
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12
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神戸市、京都市、名古屋市
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5
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10
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札幌市、函館市、福岡市、熊本市、下関市、岐阜市、呉市
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6
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8
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長崎市、八幡市、若松市
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7
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7.5
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門司市
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8
|
7
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岡山市、津市、鹿児島市、甲府市、高岡市、釧路市、小倉市
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9
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6
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堺市、仙台市、四日市市、佐世保市、新潟市、豊橋市
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10
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5.5
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姫路市、都城市、旭川市
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11
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5
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広島市、富山市、大分市、久留米市、大牟田市、戸畑市、佐賀市、静岡市、室蘭市
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12
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4.95
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金沢市
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13
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4.5
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明石市、和歌山市、大津市、長岡市、浜松市、那覇市
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14
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4.3
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高知市
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15
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4
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尼崎市、西宮市、徳島市、高松市、丸亀市、宇和島市、別府市、前橋市
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16
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3.8
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千葉市、宇都宮市
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17
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3.6
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松山市、宮崎市、長野市
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18
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3.5
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福井市、今治市、岡崎市、宇部市、秋田市
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19
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3.3
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横須賀市、松本市
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20
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3.2
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尾道市
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21
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3
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岸和田市、大垣市、福山市、宇治山田市、松江市、
川崎市、沼津市、上田市、水戸市、清水市、川越市、高崎市、若松市、盛岡市、青森市、山形市
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22
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2.8
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奈良市、鶴岡市
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23
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2.6
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米沢市
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24
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2.5
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鳥取市、高田市、福島市、一宮市、八王子市、弘前市
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25
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2.4
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桐生市、足利市、郡山市
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26
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1.7
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首里市
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伊藤貞五郎「上掲書」